STAFF

【寄り道】宮沢賢治〜永訣の朝〜

2016.07.19

こんばんは。彩加です!

今日も寄り道をして、宮沢賢治さんの詩を紹介したいと思います。

宮沢賢治

「雨ニモマケズ」は小学校で暗唱し(岩手県民!)それを今でも覚えているほど好きなのですが、

あまりにも有名なので「永訣の朝」を紹介します。(こちらも有名ですが)

永訣の朝は賢治が妹のトシ子が死ぬ間際に書いた詩です。

永訣の朝

宮沢賢治

けふのうちにとほくへいってしまうわたくしのいもうとよ

今日のうちに遠くへ行ってしまう私の妹よ

みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ

みぞれが降って表は変に明るいのだ

(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

(雨雪をとってきてください)

うすあかくいっさう陰惨な雲から

薄赤く一層陰惨な雲から

  みぞれはびちょびちょふってくる

みぞれはびちょびちょ降ってくる

(あめゆじゅとてきてけんじゃ)

(雨雪をとってきてください)

青い蓴菜のもやうのついた

青いじゅんさいの模様のついた

これらふたつのかけた陶椀に

これら二つの欠けた陶椀に

おまへがたべるあめゆきをとらうとして

お前が食べる雨雪を取ろうとして

わたくしはまがったてっぽうだまのやうに

私は曲がった鉄砲玉のように

 このくらいみぞれのなかに飛びだした

この暗いみぞれの中に飛び出した

(あめゆじゅとてちてけんじゃ

(雨雪をとってきてください)

ああ とし子

ああ、とし子

 死ぬといふいまごろになって

死ぬという今頃になって

                                                                   わたくしをいっしゃうあかるくするために

私を一生あかるくするために

こんなさっぱりした雪のひとわんを

こんなさっぱりした雪の一椀を

おまへはわたくしにたのんだのだ

お前は私に頼んだのだ

ありがとうわたくしのけなげないもうとよ

ありがとう私の健気な妹よ

わたくしもまっすぐにすすんでいくから

私も真っ直ぐに進んで行くから

(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

(雨雪をとってきてください)

はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから

激しい激しい熱や喘ぎの間から

 おまへはわたくしにたのんだのだ

お前は私に頼んだのだ

銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの

銀河や太陽、気圏などと呼ばれた世界の

そらからおちた雪のさいごのひとわんを

空から落ちた雪の最後の一椀を

 

       …ふたきれのみかげせきざいに

…二切れの御影石材に

みぞれはさびしくたまってゐる

みぞれは寂しく溜まっている

わたくしはそのうへにあぶなくたち

私はその上に危なく立ち

  雪と水とのまっしろな二相系をたもち

雪と水との真っ白な二相系を保ち

すきとほるつめたい雫にみちた

透き通る冷たい雫に満ちた

このつややかな松のえだから

このつややかな松の枝から

わたくしのやさしいいもうとの

私の優しい妹の

   さいごのたべものをもらっていかう

最後の食べ物ををもらっていこう

わたしたちがいっしょにそだってきたあひだ

私たちが一緒に育ってきた間

みなれたちやわんのこの藍のもやうにも

見慣れた茶碗のこの藍の模様にも

もうけふおまへはわかれてしまふ

もう今日お前は別れてしまう

(Ora Orade Shitori Egumo)

ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ

本当に今日お前は別れてしまう

ああ あのとざされた病室の

ああ、あの閉ざされた病室の

くらいびょうぶやかやのなかに

暗い屏風や蚊帳の中に

やさしくあをじろく燃えてゐる

優しく青白く燃えている

わたくしのけなげないもうとよ

私の健気な妹よ

この雪はどこをえらばうにも

この雪はどこを選ぼうにも

あんまりどこもまっしろなのだ

あんまりどこも真っ白なのだ

あんなおそろしいみだれたそらから

あんな恐ろしい乱れた空から

このうつくしい雪がきたのだ

この美しい雪がきたのだ

(うまれでくるたで こんどはこたにわりやのごとばかりで

                          くるしまなあよにうまれてくる)

おまへがたべるこのふたわんのゆきに

お前が食べるこの二椀の雪に

わたくしはいまこころからいのる

私は今心から祈る

どうかこれが兜率の天の食に変わって

どうかこれが兜率の天の食に変わって

やがてはおまへとみんなとに聖い資糧をもたらすことを

やがてはお前とみんなとに聖い資糧をもたらすことを

わたくしのすべてのさいわひをかけてねがふ

私の全ての幸いをかけて願う